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静岡地方裁判所 平成3年(ワ)523号 判決 1992年5月18日

原告

岩倉晴二

ほか六名

被告

水島和秀

ほか一名

主文

一  被告らは各自、原告らそれぞれに対し、各二六八万七〇四八円宛て及びいずれもこれに対する平成二年一二月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その七を被告らの、その余を原告らの負担とする。

四  この判決は主文第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告らの請求

被告らは各自、原告らそれぞれに対し、各三七九万二〇〇〇円宛て及びいずれもこれに対する平成二年一二月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、交通事故の被害者(死亡)の遺族からの損害賠償請求である。

一1  交通事故の発生及びその結果

平成二年一二月二六日午後九時頃、静岡県小笠郡大東町三俣九四六番地先県道(大東・相良線)路上において、西方から東方に向けて進行中の被告水島和秀運転の普通乗用自動車が、折から右県道を南方から北方に向けて徒歩で横断中の岩倉辰代に衝突した。この事故により、辰代は、頭部外傷、両側膝関節骨折等の傷害を負い、同日から浜岡町立病院に入院して治療を受けたが、平成三年一月四日、心不全により死亡した(争いがない。)。

2  責任原因

被告和秀は、本件事故当時、右加害車両を運転し、前方不注視等の過失により本件事故を惹起したものであるから民法七〇九条に基づき、また、被告水島忠雄は、右加害車両の運行供用者であるから自賠法三条に基づき、いずれも本件事故による損害の賠償責任を負う(争いがない。)。

3  被害者と原告らとの身分関係及び相続

辰代は、大正五年一月一七日生の男子であり、本件事故当時満七四歳であつた。原告らは、いずれも辰代とその妻であつた岩倉よみゑ(昭和五八年八月三日死亡)との間の子であつて、他に辰代の相続人はいないから、本件事故により辰代が被つた損害の賠償請求権を、法定相続分に従い、各七分の一の割合で相続した(甲第三ないし第九号証、弁論の全趣旨)。

二  争点

本件の主たる争点は、(一) 辰代及び原告らに生じた損害額、(二) 過失相殺を考慮すべき辰代の過失の有無及びその過失割合、である。

第三争点に対する判断

一  辰代及び原告らに生じた損害額(請求額・二四四四万四〇〇〇円)

1  付添看護費

辰代の年齢及びその傷害(頭部外傷)の具体的内容が重度の脳挫傷であつて、入院時から脳死に近い状態であつたこと(甲第二号証、乙第一号証の六及び八)を考慮すれば、入院の翌日から死亡までの九日間について、近親者の付添看護料(入院付添費)を本件事故による損害と認めることが相当であり、その額は三万六〇〇〇円(一日当たり四〇〇〇円)とするのが相当と認められる。

2  入院雑費

辰代の入院に伴い支出された寝衣、下着及び紙おむつ等の購入費合計一万〇六八一円(甲第一〇ないし第一二号証、弁論の全趣旨)を本件事故による損害と認めることが相当である。

3  葬儀費用

原告らは、辰代の葬儀を執り行い、その費用及びこれと関連する費用として、合計一三一万〇四五四円を支出し、これを均分に負担することとした(甲第一三号証の一ないし七、第一四号証の一、二、第一五号証の一ないし五、第一六号証の一ないし四、第一七号証、第一八号証の一ないし四、第一九ないし第三四号証、第三五号証の一、二、弁論の全趣旨)。

右事実とその他本件に現れた諸事情とによれば、本件事故と相当因果関係のある葬儀費用を八〇万円とし、原告らはこれを均分に負担するものとすることが相当と認められる。

4  逸失利益

本件事故当時、辰代の子である原告らはそれぞれ独立して生計を営んでおり、辰代は、農業を営みながら、三男である原告晴佐功と同居していた。辰代は、心臓の疾患により平成元年八月から九月にかけて約一か月程度、また目の疾患により平成二年一一月に一週間程度それぞれ入院して治療を受けたことがあつたが、退院後の経過は順調であつて、体調は回復しつつあつた(甲第九号証、乙第一号証の五)。

右事実によれば、辰代は、本件事故に遭遇しなければ、自動車損害賠償責任保険損害査定要綱(平成元年七月一日実施)の第3の2のaの定めに即して、事故後四年間にわたり、同要綱別表Ⅳの六八歳以上の男子の平均給与月額二七万〇八〇〇円(年額三二四万九六〇〇円)の収入を得ることができたものと認められるから、その逸失利益につき、生活費控除として右収入の五割相当額を減じ、同要綱に即して新ホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して(四年間の係数三・五六四)本件事故当時の現価額を算出することが相当であると認められる。右により辰代の逸失利益を算出すると、五七九万円(一〇〇〇円未満の端数切捨て)となる。

(算式)3,249,600×0.5×3.564=5,790,787

5  慰藉料

本件に現われた一切の事情を斟酌すれば、本件事故に伴う辰代の慰藉料は一五〇〇万円とするのが相当である。なお、辰代につき右金額の慰藉料を認めた場合においては、原告ら固有の慰藉料を別途考慮することは相当ではない。

二  過失相殺

1  第二の一の1及び2の事実に証拠(乙第一号証の一ないし五、七、九及び一〇)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(一) 本件事故現場は、ほぼ東西に走る県道大東・相良線に、ほぼ南北に走る町道が右県道の前後で東西に約四メートル程ずれながら交差する交通整理の行われていない変形の交差点である。右県道は、アスフアルト舗装のしてある幅員(後記歩道部分を除く。)約五・四メートルの平坦な直線道路で、現場付近において最高速度時速四〇キロメートルの規制があり、道路の中央に黄色の実線の中央線が本件交差点内を含めて引かれていて、右県道が優先道路であること表示している。右県道の北側は、右町道(北側部分)と交差する位置から西方に幅員約一メートルの歩道が設けられているものの、その東方は歩車道の区別がなく、また、右県道の南側は本件交差点付近においては歩車道の区別がない。右町道は、右県道の南側部分の幅員が約四メートル、北側部分の幅員が約四・三メートルでいずれも歩車道の区別がない。

(二) 本件事故当時、右県道の路面は乾燥しており、交通量は歩行者及び車両ともに少なかつた。本件交差点付近は照明施設によつてやや明るい状態で、右県道上を西方から本件交差点に向かつた被告和秀が本件交差点内の人影を発見し得るのは、前照灯を下向きで点灯した状態で、約七四メートル手前の位置に至つたときであつた。また、右県道と右町道(南側部分)とが交差する位置の南西側は畑であつて、本件交差点の南側から県道西方の見通しを遮る障害物は見当たらない。

(三) 本件事故当日、辰代は、地域の会合に出席した後、午後六時過ぎ頃から午後八時三〇分過ぎ頃まで右出席者数人と共に大東町内の飲食店で食事と若干の飲酒をし、その後同店の主人である福田繁に送つて貰うことになつて、同人運転の自動車に同乗し、右町道を南方から本件交差点に向けて進行してきたが、自宅に至るためには右県道を横断しなければならないところ、そこまでは至らないで、右町道上の本件交差点の南側手前付近で下車した。福田は、辰代を降ろした後、本件交差点を右折して右県道上を東方に進行しようとしたが、折から、右県道上を西方から車両が二台続けて接近している(その後方車が加害車両)ことを、その前照灯によつて認めたために、右二台をやり過ごすため本件交差点手前で停車した。しかし、辰代は、右二台の車両の通過を待つことなく、右県道の横断を開始して本件交差点内に進入した。

(四) 被告和秀は、加害車両を運転して、右県道上を西方から東方に向け時速五〇ないし六〇キロメートルの速度で進行し、本件交差点の約五〇メートル手前に差し掛かつたときに、南側町道上の交差点の手前で停車している車両(福田車)を発見し、その動静に気を取られて前方注視を怠つたまま進行したため、辰代が右県道が横断していることをその約一四・二メートル手前に至つて初めて気付き、危険を感じて急制動の措置を取るとともに左にハンドルを切つたが、間に合わず、加害車両の右前部を辰代に衝突させた。

2  右事実関係に徴すると、本件事故は、最高速度の規制を上回る時速五〇ないし六〇キロメートルの速度で進行しながら、他車の動静に気を取られて前方注視を怠つたことにより横断中の辰代を発見するのが遅れた被告和秀の過失と、夜間優先道路を徒歩で横断するに当たり、当該道路上を進行する車両が接近しつつあることを、その前照灯によつて明らかに認め得たはずであるのに(なお、辰代は目の疾患により入院治療を受けたが、退院後の経過は順調であつたことは右一の4のとおりである。)、漫然と横断を開始した辰代の過失とが競合して発生したものというべである。そして、その事故態様、本件交差点付近の状況及び辰代の年齢等の諸事情を併せ考えると、過失割合は被告和秀が八〇パーセント、辰代が二〇パーセントと認めるのが相当である。

3  以上によれば、本件事故により辰代に生じた損害額(右一の1、2、4、5)及び原告らに生じた損害額(右一の3)のうち、原告らが被告らに請求しうる金額は、各二四七万二七六三円宛てとなる。

(算式)

(36,000+10,681+800,000+5,790,000+15,000,000)×0.8÷7=2,472,763

三  弁護士費用(請求額・原告ら各三〇万円宛て)

本件事案の内容に鑑みると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、合計一五〇万円(原告ら各二一万四二八五円宛て)と認めるのが相当である。

第四結語

よつて、原告らの請求は、被告ら各自に対し、原告らそれぞれに各二六八万七〇四八円宛て及びいずれもこれに対する本件事故の日である平成二年一二月二六日から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。

(裁判官 石原直樹)

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